起立性調節障害(OD)と自律神経
ODは、起立時に重力で下半身に血液が溜まるのを防ぎ、脳への血流を維持する自律神経の機能が低下することで発症します。
交感神経と副交感神経のアンバランス
- 起立時(正常): 立ち上がると、交感神経が活性化し、末梢血管が収縮し、心臓の拍動が強くなることで、血圧の低下を防ぎます。
- ODの場合: この交感神経の応答が不十分であるか、あるいは副交感神経(迷走神経)が過剰に働きすぎるために、血圧が維持できず、脳への血流が一時的に低下します。
- 主な症状: めまい、立ちくらみ、倦怠感、動悸、失神などが現れます。
迷走神経の関わり:過剰な抑制作用
迷走神経(第X脳神経)は副交感神経系の主要な神経であり、心拍数や血圧を低下させる働きを持ちます。ODの特定の病型において、迷走神経の「過剰な働き」が症状を引き起こす要因となります。
血管迷走神経反射(VVR)との関連
ODの中でも特に「起立性低血圧(OH)」や「神経調節性失神(NMS)」といった病態では、迷走神経の過剰な関与が見られます。
- 機序: 長時間の起立などにより静脈血が下肢に溜まると、心臓に戻る血液(静脈還流)が一時的に減ります。しかし、一部のOD患者では、心臓が空っぽに近い状態であるにもかかわらず、心臓の機械受容器がこれを**「過剰な負荷」**と誤認し、迷走神経を反射的に活性化させてしまいます。
- 結果: 迷走神経が優位になることで、**心拍数が急激に低下(徐脈)**し、血管が拡張してしまうため、重力に逆らえず血圧が急落し、失神に至ることがあります。
迷走神経と炎症・全身倦怠感
迷走神経は、抗炎症作用を持つ「コリン作動性抗炎症経路」の主要な構成要素でもあります。
- OD患者が訴える強い全身倦怠感や慢性的な疲労には、自律神経の不調による微細な炎症制御の破綻が関与している可能性も指摘されており、この側面からも迷走神経の役割が注目されています。
治療的アプローチとの関連性
迷走神経の関わりは、ODの治療戦略にも影響を与えます。
- 神経調節: 近年研究されている非侵襲的な迷走神経刺激(tVNS)などは、OD患者の自律神経バランスを整え、交感神経と副交感神経の適切な応答を促すための新たな治療標的として注目されています。
- 生活習慣: 規則正しい生活や適度な運動による自律神経訓練は、迷走神経を含む自律神経全体の機能を改善し、OD症状の緩和に繋がります。
