不妊症での年齢別、着床率と流産率について誤解が多い妊娠率について調べてみた。
多くの方が「年齢が上がると妊娠しにくくなる」「流産率が高くなる」といったイメージをお持ちかもしれません。不妊治療に取り組む中で年齢による妊娠率や流産率の差に不安を感じることも多いでしょう。しかし、その数字の裏側には見落とされがちなポイントがあります。本当の違いは実は“受精卵の質”によるものが大きいのです。年齢という表面的な数字にとらわれず、着床や妊娠の成否が最終的に「どんな受精卵が子宮に戻されたか」に強く左右されるという事実を、きちんと知っておくことがとても大切です。
妊娠率や着床率についての誤解とPGT-Aの登場
不妊治療の現場では、年齢が高くなるほど妊娠しづらい、流産しやすいといったイメージが根強く残っています。20代と40代を比べた場合、どれだけ治療を頑張ってもなかなか思うような結果が得られない、そう感じている方も少なくありません。しかし、近年はこの「年齢による差」の見え方自体が大きく変わってきました。その理由のひとつがPGT-Aの登場です。年齢の違いが妊娠率や流産率にどう影響していたのか、その仕組みを知ることで、不妊治療に対する認識も少し柔らかくなるかもしれません。
年齢別妊娠率のデータは胚の質を無視していた
これまで公表されてきた年齢別の妊娠率や流産率のデータは、一見すると「若い人の方が妊娠しやすい」と直感的に理解されてきました。しかし、これらのデータは胚そのものの質や染色体の状態まで細かく区別せず、単純に年齢ごとに集計されたものです。つまり、20代でも40代でも移植される胚がどのような状態かという点を度外視していたのが事実です。この点が従来データの大きな盲点でした。
PGT-A(着床前診断)の内容と目的
PGT-Aとは、受精卵が胚盤胞まで成長した段階で一部の細胞を採取し、その染色体数や構造に異常がないか調べる検査を指します。染色体異常は流産や妊娠不成立の主な原因であり、この検査によって異常のない胚(正倍体胚)だけを移植できるようになります。PGT-Aは、胚の「見た目」だけでは分からない遺伝的な異常まで検出できる点で、従来の形態評価だけに頼ってきた体外受精に大きな変革をもたらしています。
年齢が上がるほど胚の染色体異常が増える仕組み
年齢が高くなるにつれて卵子の染色体異常率が上昇し、結果として異常を持った胚が増えてしまうのは避けられません。例えば、40代で体外受精を行う場合、胚盤胞の約7割から8割に何らかの染色体異常があるという報告が存在します。対して20代の場合は、約3割程度とされています。年齢による差がこれほど大きくなる主な理由は、卵子そのものの加齢によるものであり、子宮の機能ではありません。
年齢ごとの妊娠率や流産率の差は胚の質が主因
従来、年齢ごとの妊娠率や流産率の差が大きいとされてきた最大の理由は、「胚の染色体異常が増える」ことにありました。つまり、40代の妊娠率が下がる、流産率が高くなるのは、移植された胚の多くが染色体異常を持っていたためなのです。実際には、胚さえ正常であれば、子宮側の受け入れ態勢が急激に悪化するわけではありません。
PGT-Aでクリアした胚の着床率は年齢で変わるのか
PGT-Aの導入で、染色体に異常がない「正倍体胚」だけを移植できるようになりました。ここで気になるのは、この正倍体胚を使った場合でも年齢による着床率の差が残るのかどうかです。最近の研究や臨床データから、従来考えられていたほどの年齢差は、PGT-Aクリア胚においてはほとんど見られないことが分かってきました。
正倍体胚の定義と重要性
PGT-Aの検査で染色体が全て揃っていると確認された胚を正倍体胚と呼びます。ヒトの場合、23対46本の染色体がすべて正常な形で存在していることが求められます。正倍体胚は、流産の大きな原因を排除した「質の良い胚」と位置づけられ、不妊治療の成功率を大きく左右します。
最新の研究に基づく着床率のデータ
PGT-Aで正倍体と診断された胚の移植成績を比較した複数の研究では、20代から40代前半まで、着床率や妊娠率、生児獲得率にはほとんど差が見られないという報告が主流です。20代での着床率が約50~60%、40代前半でも45~55%程度と、統計的な有意差は極めて小さいのが現状です。PGT-Aによって年齢差の多くが解消された理由は、胚の染色体異常を事前に排除できるからです。
年齢別の着床率の比較
20代、30代前半、30代後半、40代前半と区切ってみても、PGT-Aクリア胚の場合は着床率に大きな違いが出にくい傾向が見られます。40代前半の方でも正倍体胚を得られれば、20代とほぼ同等の結果が期待できます。これは、子宮内膜の受容力自体が年齢による大きな差を生みにくいという事実を裏付けています。
着床率に年齢差がほとんど生じない理由
染色体異常という「最大の壁」を除いた後は、子宮側の状態が正常である限り、どの年代でも胚が着床する確率は同等になります。加齢による着床率低下は、主に異常胚の混入によって引き起こされていたことが明らかになっています。
PGT-Aクリア胚の流産率と年齢の関係
流産の主な原因である染色体異常をPGT-Aによって排除できるようになった今、残る流産のリスクにはどのようなものがあるのでしょうか。年齢が高い場合でも流産率は本当に下がるのでしょうか?
流産の主因とPGT-Aが除外できる範囲
一般的に、流産の6割から7割は胚の染色体異常が原因とされてきました。PGT-Aでこの異常を除外できれば、従来の年齢ごとの流産率の上昇は大幅に抑えられるという期待が生まれます。染色体異常以外の要因としては、子宮の構造異常、免疫異常、血液の凝固障害などが挙げられます。
年齢別流産率の最新データ
PGT-Aで正倍体胚と判定された場合、20代・30代・40代のいずれでも流産率は約5~15%前後で安定する傾向が報告されています。これは、PGT-Aを行わない場合の40代の流産率(50%を超えることもある)と比べて劇的な改善です。染色体異常が主要因であったことが、データからも裏付けられています。
年齢による流産率の差はほぼ消失する
PGT-Aを経て正常とされた胚を移植した場合、流産率の年齢差はほとんど見られません。残るリスクは、免疫のバランスや子宮因子といった染色体以外の要因に限られます。特にTh1/Th2比(免疫バランス)や子宮内膜の状態などに問題がなければ、40代でも20代と遜色ない流産率で推移します。
流産率が劇的に改善する理由
この劇的な改善は、胚の選別が厳密になったことで「そもそも着床しやすく、流産しにくい胚」だけを選んで移植できるからです。流産の多くは胚の遺伝的な問題に起因しており、PGT-Aでその部分を取り除くことで年齢にかかわらず安定した結果が得られるようになりました。
PGT-Aで年齢差が縮まる理由と残るわずかな違い
PGT-Aによって年齢による妊娠率や流産率の差が大幅に小さくなったとはいえ、完全にゼロになるわけではありません。なぜほぼ「差がなくなる」のか、逆にどこに微細な違いが残るのかを丁寧に解説します。
染色体異常が排除されたことが差を縮めた最大要因
これまで年齢ごとに大きな差が生じていたのは、胚の染色体異常率が年齢に比例して増加していたからです。PGT-Aによる染色体検査をパスした胚に限れば、年齢による差の大半は消えます。つまり「胚の質」で決まっていた部分が、年齢差として現れていただけです。
子宮内膜の加齢による変化はごくわずか
PGT-Aクリア胚を使った場合でも、ごくわずかながら年齢による違いが残ることがあります。その一因が子宮内膜の加齢による変化や血流の低下です。ただし、これらの影響は染色体異常に比べると微細で、実際の着床率や流産率に大きな差を生むほどではないと考えられています。
ミトコンドリア機能の低下など胚側のわずかなリスク
胚の染色体が正常であっても、加齢によって卵子内のミトコンドリア(細胞のエネルギーを作る部分)の働きが落ちると、わずかながら胚の発育や着床率に影響が出ることもあり得ます。こうした「染色体以外の要素」が残ることで、年齢によるわずかな差が消しきれないこともあります。
PGT-Aの技術的な限界とモザイク胚の問題
PGT-Aは胚の一部細胞を使って診断するため、全ての異常を完璧に検出できるわけではありません。中には、正常な細胞と異常な細胞が混在する「モザイク胚」も存在します。こうした胚が移植された場合、稀に予期しない流産や発育不良が起こることもあり、現行の技術では全てを事前に防ぐことはできません。
不妊治療全体で見たときの20代・30代・40代の現実的な違い
着床率や流産率では年齢差が小さくなったものの、不妊治療全体を俯瞰すると年齢による大きな違いがまだ残っています。これはPGT-Aだけでは解決しない問題です
着床率や流産率だけでなく、胚の獲得数が年齢で大きく変わる
年齢が高くなるほど、卵巣から採れる卵子の数が減り、PGT-Aにかけられる胚自体が少なくなります。そのため、胚の数を確保するという段階で、20代と40代の間には大きな差が生じます。採卵の回数が増え、治療期間も延びやすくなります。
PGT-Aクリア胚の割合自体が年齢とともに低下する
40代で体外受精を行った場合、胚盤胞のうち染色体異常のない正倍体胚が得られる割合は2割から3割未満にとどまることが多いです。これに対し、20代であれば5割以上の確率で正倍体胚が得られる場合もあります。この差が最終的な妊娠成立率の違いにつながります。
累積妊娠率や治療に必要な回数・費用への影響
PGT-Aクリア胚を移植した場合の着床率は年齢差が小さいものの、そこに至るまでの治療回数や採卵回数、費用は年齢が上がるにつれて増加する傾向があります。「1回で妊娠できる確率」は大きく変わらなくても、そこにたどり着くまでの負担が大きく異なる点は見落とせません。
「最終的に赤ちゃんを授かる確率」の年齢差は胚の質次第
最終的なゴールである「出産」に至るまでには、質の良い胚をどれだけ多く確保できるかがカギになります。正倍体胚さえ得られれば、年齢による差は縮まりますが、正倍体胚を得る確率自体が年齢によって大きく異なるため、「累積」の視点では依然として年齢の壁が残る現状です。
PGT-Aの今後と不妊治療の展望
PGT-Aが日本国内でも急速に普及しつつある現状は、不妊治療そのもののあり方に大きな変化をもたらしつつあります。2025年、2026年以降の不妊治療はどう変わるのか、今後の展望と課題をまとめます。
日本の不妊治療におけるPGT-Aの普及による変化
これまで「年齢によるリスク」が大きいとされてきた不妊治療も、PGT-Aの普及により「無駄な移植」や「繰り返す流産」を避けることが可能になりつつあります。患者様にとって精神的・肉体的な負担が減り、治療の効率も格段に向上しています。
保険適用の拡大と今後の費用の考え方
PGT-Aは現時点では自費診療が主ですが、今後は保険適用が拡大される見込みも出ています。費用面のハードルが下がれば、より多くの方が恩恵を受けられるでしょう。治療の質向上とともに、治療を諦める方が減ることも期待されます。
不育症や免疫の検査の重要性が増している
PGT-Aで胚側の要因が排除されるようになると、残る流産や妊娠不成立の原因は子宮側、特に不育症や免疫異常に集約されます。Th1/Th2比など、免疫バランスの検査や子宮内膜の詳細評価が今後ますます重要になっていきます。
質の高い胚を目指すことの意義
年齢にこだわりすぎるよりも、いかにして質の高い胚を多く得るか、胚盤胞を目指すかという点に戦略をシフトすることが、これからの不妊治療の成功のカギとなります。PGT-Aの導入により「やってみなければ分からない」という不安が減り、一人ひとりに最適な治療が見えやすくなりました。
PGT-Aで「エラーなし」の胚なら年齢差は気にしすぎないで良い
PGT-Aの普及により、着床率や流産率の年齢差は「胚の染色体異常」に起因していた部分が大きく、PGT-Aクリア胚に関しては20代と40代の間で大きな違いがないことが分かりました。つまり、正倍体胚を得て移植できれば、年齢を理由に諦める必要はありません。
PGT-Aはあくまで胚の選別であり、子宮や体そのものを若返らせるものではありません。しかし、これまで見えなかった「質の高い胚」の重要性を強く再認識させてくれました。
PGT-Aクリア胚を移植してもうまくいかない場合は、不育症や免疫、子宮側の要因をしっかり調べる必要があります。不妊治療は、「胚の質」「子宮側の環境」「免疫や不育症」など、全体を見て最適な戦略を立てることが何より大切です。年齢の数字だけで諦める前に、できることがまだまだ多い時代になったと考え、前向きに治療へ臨んでいただければと思います。




