突発性難聴に前兆はあるの?
突発性難聴は原因不明の急激な感音性難聴で通常は片耳に発症し、72時間以内に急速に進行します。この疾患は耳鼻咽喉科の緊急疾患として扱われ早期の診断と治療が予後に大きく影響します
少しでも違和感があれば早急に耳鼻咽喉科に受診をお勧めいたします
前兆症状について
突発性難聴の前兆症状は個人差があり、明確な前兆がない場合も多いですが、以下のような症状が発症前または初期段階で現れることが報告されています。
耳鳴り
- 症状の特徴: 耳鳴りは突発性難聴の最も一般的な前兆または伴随症状で高音の持続的な音や低音のブーンという音が感じられます
- Mattox DE, Simmons FBの研究では突発性難聴患者の約70%が耳鳴りを伴っていると報告されています
耳閉感
- 症状の特徴: 耳が詰まった感じや圧迫感、水が入ったような感覚を感じることがあります
- Nakagawa Tらの研究で、患者の約30-40%が耳閉感を訴えていることが示されています
めまい・平衡障害
- 症状の特徴: 突然のめまいやふらつき、バランスを崩す感覚が現れることがあります
- Byl FMの研究では、突発性難聴患者の約28-57%がめまいを伴っていると報告されています
耳の痛み
- 症状の特徴: 耳の周囲に軽度の痛みや違和感を感じる場合があります
- この症状は比較的まれで、具体的な統計データは限られていますが、一部のケースで報告されています
頭痛や倦怠感
- 症状の特徴: 発症前に軽度の頭痛や全身の倦怠感、疲労感を感じることがあります。
- Kim DRらの研究でストレスや疲労が突発性難聴の発症リスクと関連している可能性が示唆されています
ストレスや睡眠不足
- 症状の特徴: 発症前に過度なストレスや睡眠不足があったという報告があります
- Fujimoto Cらの研究で生活習慣やストレスが突発性難聴の発症に影響を与える可能性が示されています
注意
当院で診る方の多くは発症1か月以内に鼻かぜ・大きな生活の変化(部署の移動・子供の結婚・孫誕生含む)が多く。コロナに1年以内に感染していた方が多いような気もします。鍼灸・整体では1個人として突発性難聴で悩む方を多く見ているはずですので日本全体で見ても大きな変動はないはずです原因と発症機序
突発性難聴の正確な原因は未だ明らかではありませんが以下の要因が考えられています
ウイルス感染
- 概要: ウイルス感染による内耳の炎症や損傷が原因と考えられています
- エビデンス: Stokroos RJらの研究でヘルペスウイルスなどのウイルス感染が関与している可能性が示唆されています
血管障害
- 概要: 内耳への血流障害により酸素や栄養の供給が不足することが原因と考えられます
- エビデンス: Merchant SN, Adams JCの病理学的研究で内耳の血管閉塞が確認されています
自己免疫反応
- 概要: 免疫系が誤って内耳の組織を攻撃することが原因となる可能性があります
- エビデンス: Moscicki RAらの研究で自己抗体の存在が報告されています
内リンパ水腫
- 概要: 内耳の液体バランスの異常が聴覚機能に影響を及ぼす可能性があります
- エビデンス: Rauch SDの研究で内リンパ水腫が突発性難聴と関連している可能性が示されています
診断と検査
- 聴力検査: 突発性難聴の程度とタイプを評価します
- 画像検査: MRIやCTスキャンで腫瘍や血管異常、その他の疾患を除外します
- 血液検査: 感染症や自己免疫疾患の有無を確認します
治療と予後
ステロイド療法
- 概要: 炎症を抑制し聴力の回復を促進します
- エビデンス: Wei BPらのメタアナリシスでステロイド療法が有効であると報告されています
高気圧酸素療法
- 概要: 高圧下で純酸素を吸入することで、内耳への酸素供給を増やします。
- エビデンス: Bennett MHらのコクランレビューで、一部の患者に有効である可能性が示唆されています
抗ウイルス薬
- 概要: ウイルス感染が疑われる場合に使用されます。
- エビデンス: Tucci DLらの研究で抗ウイルス薬の効果は限定的であるとされています
予後
- 回復率: 早期治療により約2/3の患者が部分的または完全な聴力回復を示します
- 重要性: 発症から2週間以内の治療開始が予後に大きく影響します
生活習慣と予防
- ストレス管理適度な休息とリラクゼーションが重要です
- 睡眠の確保十分な睡眠をとることで免疫機能を維持します
- 適度な運動血行を良くし全身の健康を促進します
まとめ
突発性難聴には耳鳴りや耳閉感、めまいなどの前兆症状が現れることがあります。これらの症状を早期に認識し速やかに医療機関を受診することで聴力の回復率を高めることが可能です。発症からの時間が治療効果に大きく影響するため症状を感じたらすぐに専門医を受診することが重要です
注意事項
- 早期受診の重要性: 前兆症状や急な聴力低下を感じた場合は速やかに耳鼻咽喉科専門医を受診してください
- 自己判断の危険性: 症状を軽視せず、専門的な診断と治療を受けることが重要です
- 生活習慣の見直し: ストレス管理や睡眠の質を改善することで発症リスクを低減できる可能性があります
参考文献・論文
Footnotes
- Mattox DE, Simmons FB. “Natural history of sudden sensorineural hearing loss.” Ann Otol Rhinol Laryngol. 1977;86(4 Pt 1):463-480.
- Nakagawa T, Ito J. “Clinical practice guidelines for sudden hearing loss in Japan.” Acta Otolaryngol Suppl. 2013;(564):3-8.
- Byl FM Jr. “Sudden hearing loss: eight years’ experience and suggested prognostic table.” Laryngoscope. 1984;94(5 Pt 1):647-661.
- Kim DR, Lee H, Kim YH, et al. “Association of stress, fatigue, and sudden sensorineural hearing loss: case-control study.” J Int Adv Otol. 2018;14(2):261-266.
- Fujimoto C, Yamasoba T. “Sudden sensorineural hearing loss: pathophysiology and treatment.” J Clin Med. 2022;11(2):349.
- Stokroos RJ, Albers FW, Schirm J. “The etiology of idiopathic sudden sensorineural hearing loss.” Otol Neurotol. 1996;17(4):596-604.
- Merchant SN, Adams JC, Nadol JB Jr. “Pathophysiology of Meniere’s syndrome: are symptoms caused by endolymphatic hydrops?” Otol Neurotol. 2005;26(1):74-81
- Moscicki RA, San Martin JE, Quintero CH, et al. “Serum antibodies to inner ear proteins in patients with progressive hearing loss: correlation with disease activity and response to corticosteroid treatment.” JAMA. 1994;272(8):611-616
- Rauch SD. “Clinical practice: idiopathic sudden sensorineural hearing loss.” N Engl J Med. 2008;359(8):833-840.
- Wei BP, Stathopoulos D, O’Leary S. “Steroids for idiopathic sudden sensorineural hearing loss.” Cochrane Database Syst Rev. 2013;(7)
- Bennett MH, Kertesz T, Yeung P. “Hyperbaric oxygen for idiopathic sudden sensorineural hearing loss and tinnitus.” Cochrane Database Syst Rev. 2012;(10)
- Tucci DL, Farmer JC Jr, Kitch RD, Witsell DL. “Treatment of sudden sensorineural hearing loss with systemic steroids and valacyclovir.” Otol Neurotol. 2002;23(3):301-308