精子は問題ないと言われ安心していませんか?

精子は「正常」と診断されたが、本当に正常なのか?

精子は問題ないと言われ安心していませんか?

体外受精の過程で受精しない原因として精子の「正常性」に関する疑問が浮上します。精子が「正常」と診断された場合でも評価は多くの場合、外見や運動率のみに基づいて行われており、これだけですべての受精能力を説明できるわけではありません

運動率について

精子の運動率は受精の成功において重要な要素の一つです。精子がどの程度しっかりと動いているかを評価し基準値に達している場合「正常」とされます。しかし精子が運動しているからといって、それが卵子の周囲に到達し卵子の外膜を突破して受精できる能力を持っているとは限りません。つまり運動率が正常であっても精子が受精に必要なエネルギーや膜浸透能力を持っていない場合は受精は成立しないのです

精子の形態異常

精子の形態に異常がない場合、一般的には正常とみなされます。しかし精子の形が正常であっても内部の構造や遺伝的な異常に関しては見た目だけでは判断できません。染色体や遺伝子のレベルで異常がある場合、それは受精能力や胚の発育に悪影響を及ぼす可能性があります。形態的に問題がないように見える精子でも遺伝子の健全さが保証されていない限り受精率に影響することは否定できません

DNAの断片化やミトコンドリアの異常などは判断せずに正常と言っている

精子に「問題がない」と言われることは、ちょうど子供を見て「かわいいね」と言うのと同じくらい気軽な発言であることが多いです。精子の運動率や奇形率だけでその質を判断することは不十分ですし逆に運動率が低いからといって精子の質が必ずしも悪いとは限りません。DNAの断片化やミトコンドリアの異常については一般的な精液検査では評価されないことが多く、外見や運動率のみで精子が「正常」と判断されてしまうことがあります。しかし精子の健康状態を評価するにはDNAの断片化やミトコンドリアの機能のような内部の状態も重要です。これらが正常でなければ、受精後の胚発育や着床にも影響を及ぼす可能性があり、単に「正常」とされる精液検査の結果だけで安心することはできません

卵子の質について

卵子の質は見た目や大きさだけで判断することはできません。卵子が受精するためには細胞内部の環境が整っていることが重要です。ミトコンドリアの機能が正常でなければ卵子のエネルギー供給が不足し受精やその後の胚発育が阻害される可能性があります。また染色体が正常であることも必要であり染色体異常がある卵子は受精が成立しても胚の正常な発育が妨げられることがあります

精子についても同様のことが言えます。精子が受精に寄与する際、見た目が正常であってもその内部の環境が整っていない場合、問題が生じることがあります。ミトコンドリアの機能は精子の運動能力や受精後の胚の発育に大きく関与しています。ミトコンドリアは精子においてエネルギー供給源として重要であり機能が低下していると精子の運動性が低下し卵子への到達が困難になるだけでなく、受精後の発育にも影響を及ぼします。また染色体や遺伝子レベルでの異常が存在する場合、正常な受精が阻害される可能性があります。したがって精子の質を評価する際には、見た目や運動性だけでなく、内部のミトコンドリア機能や遺伝子の健全性についても考慮することが重要です

精子・卵子の見た目以外の要素を確認する重要性

体外受精で受精がうまくいかない場合は精子や卵子の「見た目」だけではその問題を十分に評価することはできません。内面的な要素、特に遺伝子の健康状態や細胞のエネルギー代謝なども考慮に入れる必要があります。

精子のDNA断片化

精子のDNA断片化は受精率や胚の発育に影響を与える重要な要素です。DNA断片化が高い精子は受精した後の胚が正常に発育しないリスクが高まります。このため精子のDNA断片化率を確認することで見た目や運動性だけではわからない要因を特定することが可能です

卵子のエネルギー代謝

卵子が持つエネルギー供給システム、特にミトコンドリアの機能は卵子の質に大きく影響します。ミトコンドリアは細胞内でエネルギーを生み出す役割を担っており、その機能が低下すると、卵子の受精能力や受精後の胚発育に悪影響を及ぼします。また受精後の初期段階、特に8細胞期までの発育には、精子由来のミトコンドリアがエネルギー源として重要な役割を果たすことが科学的に示されています。精子のミトコンドリアは卵子に取り込まれエネルギーを利用することで初期胚の発育が支えられるため、この段階でのミトコンドリアの質も非常に重要です。卵子のエネルギー代謝が十分であるかどうかを確認することも受精成功のためには重要です

どうして日本の医師は気軽に「精子に問題はない」・「とても良いです」と言うのか?

体外受精の際、日本の医師から「精子に問題はない」「とても良い状態です」といった説明を受けることがあります。しかし、こうした説明にはどれほどの根拠があるのでしょうか?

見た目や運動率だけで「正常」と判断している場合がある

精液検査の基準は主に運動率と奇形率などに基づいて行われます。精子の運動率が正常範囲にあり奇形率が低い場合、多くの医師は「精子に問題はない」と判断します。しかし、このような評価基準では精子が持つ遺伝子や内部の健康状態までは十分に評価されていないことが多いです。精子の見た目や運動能力が良好であっても内部のDNAが断片化している場合、それは受精やその後の胚の発育に悪影響を及ぼす可能性があります

精子のDNA断片化については評価されないことが多い

精子のDNA断片化率は受精後の胚の健康や着床成功率に大きな影響を与える要因です。しかし日本においては、精子のDNA断片化に関する評価は精液検査のルーチンとして行われていないことが多いです。そのため精液検査の結果が「正常」とされても受精に必要な全ての条件を満たしているとは限りません

  • 胚の発育阻害精子のDNAに断片化があると受精した後の胚が正常に発育せず流産や着床失敗の原因となることがあります
  • 着床障害受精が成立しても胚が子宮内膜にうまく着床できないケースが増えることがあります

精子の選別方法の限界

体外受精の際に使用される精子の選別方法として、「スイムアップ法」や「密度勾配法」が一般的ですが、これらの方法では精子の運動性や形態的な質のみが考慮されます。これらの方法で選ばれた精子が必ずしも受精能力が高いとは限りません。特に遺伝的な健全さやDNAの断片化の有無については、これらの方法で評価することは難しいです。また顕微授精(ICSI)では形態的に良好な精子を選んで卵子に注入しますが、これも形態に基づく選別であり、内部のDNAの健康状態までは考慮されていません。

医師の説明が楽観的な理由とは?

医師が「精子に問題はない」または「とても良い状態です」と楽観的な説明を行う理由

  1. 一般的な基準に基づいている精液検査の結果がWHO(世界保健機関)の基準に合致していれば「正常」とみなされます。しかし、これらの基準には限界があり見た目や運動性だけで判断することには不安が残る部分があります
  2. 検査項目の不足精液検査のルーチンでは、子のDNA断片化やその他の詳細な遺伝子評価が含まれていないことが多く通常の検査結果のみで「問題なし」と判断されることが多いのです
  3. 患者の不安軽減医師は患者の不安を軽減するために、なるべく肯定的な表現を使うことがあります。しかし、これは時に患者の理解を誤らせることにもつながります。精子の見た目や運動性の問題がないからといって、必ずしも受精能力が十分であるとは限らないことを理解しておくことが重要です
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