採卵で成熟卵が取れない原因は?生活習慣がLHサージに与える影響とは
不妊治療の一環で行われる「採卵」ですが成熟した卵子が採取できないことがあります。クリニックでの薬物療法は問題なく行われているのに、なぜ卵子の成熟が妨げられるのでしょうか?
今回はLHサージ(黄体形成ホルモンの急上昇)が不十分になる要因に注目し特に生活習慣がどのように卵子の成熟に影響を与えるかについて話をしていきます
LHサージと卵子の成熟の関係
卵子の最終的な成熟と排卵を促すのは黄体形成ホルモン(LH)のサージ(急激な上昇)です。このLHサージが不十分だと卵胞は十分に発育せず採卵時に成熟卵を得られないことがあります。通常、LHサージは排卵の24~36時間前に起こりますがタイミングや強度はホルモンバランスや生活習慣によって影響を受けることが知られています
では日常生活の中でどのような習慣がLHサージの不十分さにつながるのでしょうか?
就寝時間が平均24時を過ぎている生活
遅寝はホルモンバランスに影響を与える
睡眠不足や不規則な睡眠パターンはホルモンバランスを崩す大きな要因です。メラトニンの分泌が減少することで性腺刺激ホルモン(GnRH)の分泌が乱れLHとFSH(卵胞刺激ホルモン)の分泌も不規則になります
これによりLHサージの発生が不十分になる可能性があります。つまり適切なタイミングで卵胞を成熟させるためのホルモン刺激が得られないことから成熟卵が取れない原因となり得ます
甘いものをよく食べると卵胞成熟に影響が?
インスリン抵抗性が卵巣機能に悪影響を与える
甘いものや高糖質な食事は血糖値の急激な上昇を引き起こしインスリン抵抗性を悪化させます。インスリン抵抗性は卵巣内でアンドロゲン(男性ホルモン)の過剰分泌を誘発し卵胞の発育と成熟を妨げることが知られています
またインスリン抵抗性はGnRHのパルス発現にも悪影響を及ぼしLHサージの発生が十分でなくなることから卵子の成熟が遅れる原因となることがあります
不規則な生活でサーカディアンリズムが乱れる
体内時計の乱れがLHサージを不十分にする
体内時計(サーカディアンリズム)はホルモン分泌のタイミングに大きな影響を与えます。特にLHサージは、サーカディアンリズムによって調整されるため乱れはLHサージのタイミングや強度を低下させることにつながります
起きる時間や寝る時間がバラバラな生活をしていると体内時計が乱れホルモンの分泌も不規則になるため卵胞の最終的な成熟が妨げられる可能性があります
朝食を食べないことがLHサージに影響?
トリプトファン不足によるホルモンバランスの乱れ
朝食を食べないことでトリプトファン(セロトニンとメラトニンの前駆物質)の摂取が不足します。トリプトファンが不足するとメラトニンの合成が低下しHPO軸(視床下部-下垂体-卵巣軸)の調節が乱れGnRHの分泌が不規則になります
その結果LHサージが発生しにくくなり卵子の成熟が不十分になることがあります。朝食をしっかりと摂りトリプトファンを補給することが重要です
夜遅くの運動がホルモンバランスを乱す?
交感神経の刺激がLHサージに悪影響を与える
21時以降の夜遅くの運動は交感神経を刺激しコルチゾールやアドレナリンなどのストレスホルモンの分泌を増加させます。これらのホルモンはGnRHの分泌を抑制しLHサージが発生しにくくなります
また体温の上昇や興奮状態が続くと睡眠の質が低下しHPO軸のホルモン分泌リズムが乱れ卵子の成熟に悪影響を及ぼす可能性があります
寝る直前までスマホを見ている
ブルーライトがメラトニンの分泌を抑制する
スマートフォンから発せられるブルーライトは睡眠ホルモンであるメラトニンの分泌を抑制します。メラトニンは睡眠の質を高めるだけでなくHPO軸の調節にも関与しているためメラトニン不足はLHサージの発生を妨げる可能性があります
その結果、卵子の成熟が不十分になり採卵時に成熟卵を得られない原因となることがあります
貧血が卵巣機能に与える影響
鉄不足が卵子の成熟を妨げる可能性がある
貧血は全身の酸素供給を低下させ卵巣への血流も減少させます。これにより卵胞の発育と成熟が妨げられる可能性があります。また鉄欠乏は甲状腺機能を低下させHPO軸を通じてLHサージに影響を与えることがあります
鉄分の補給や貧血の治療を行うことで卵巣機能を改善できる可能性があります
自律神経失調症の影響とは?
ストレスホルモンの増加がLHサージを抑制する
自律神経の乱れは交感神経と副交感神経のバランスを崩しストレスホルモンであるコルチゾールの分泌を増加させます。コルチゾールの上昇はGnRHの分泌を抑制しLHとFSHの分泌にも悪影響を与えます
これによりLHサージが不十分になり卵子の最終的な成熟が妨げられることがあります
総合的な改善方法
生活習慣の改善はLHサージの正常化と卵子の成熟、そして治療効果の向上につながる可能性があります。
- 規則的な睡眠習慣を取り入れ、就寝・起床時間を整える。
- 甘いものや高糖質な食事を控えるor上昇した血糖値のケア、血糖値を安定させる。
- トリプトファンを含む朝食をしっかり摂取しホルモンバランスを整える
- 夜遅くの運動は避け、夕方までに行う
- 電子機器の使用を制限しブルーライトの影響を最小限に抑える
- 貧血や自律神経の症状を適切に管理
利用者さん向け